美人林と苦行の道!

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     朝。
    クソ寒い橋の下での一時間の睡眠で体力の回復がはかれるはずもなく、コンディションは本当に最悪だった。
    テントにシュラフにマット、カメラ機器、充電機類、生活用品etc…なにより三脚の重さで肩がパンパンである。これだけでかなりの重さになるのだ。
    重たい足取りで駅に向かい、ベンチで寝てるとやたら来るわ来るわ学生さん。
    ここは本当に田舎ではあるが子供の数は多いようだ。

    女子高生に希有なオッサンがいるというまなざしを受ける。まぶしい。
    隣の松代なら観光客も多くくるのだろうがここでは珍しいのだろう。
    怪しいもんじゃござぁせんよ?
    スマホいじってる女子高生に座られる珍事件があったけどオッサンは無実だ。
    そんな目で見るなぃ。
    それにしても新潟の女子高生は日本一スカートが短いと有名だが、こんな底冷えの中でコートもなしにミニスカで過ごす彼女達は本当に根性の固まりだと思った。
    尊敬の念を抱かざるをえない。
    しかし寒さに耐えるその姿を見てジャージをはいたらどうか?と勧めたくなるのである。
    彼女達はまるで減量苦に耐え忍ぶボクサーだ。

    そんな新潟の十日町の学生さん達は男女ともに本当に仲が良い。
    こんなに仲いいもんなのか…と驚くくらい。
    なんていうか青春の香りが漂う満員のローカル列車の中は疲れた僕にはありがたいものがあったなぁ。
    甘酸っぱい妄想にかられながら松代で降車する。
    ここは観光地として整備されている町の雰囲気がある。
    といってもすごく小さくて郷土資料館と待合室と物産店を兼ねた施設とバス停とセブンイレブンがあるくらいだが。
    とにかく朝は学生でいっぱいなのだ。
    彼らはここでどんな青春を送っているのだろう?
    どこで遊んだりするのかな?

    本日の目的地である美人林へと向かうバスを待つ。
    しばらくするとバスがやってきた。
    が、これは僕が知ってるバスじゃない。
    ここでのバスはすごく小さな小さなバスなのだ。
    どう形容していいか分からないが、老人介護のバンや、教習所の小さなバス、小さな幼稚園の送迎バスに近い。
    僕らの想像するあのバスではなかったのだ。

    学生さん達とそいつに乗り込みしばらく揺られてみる。
    バスは大きく左右に揺れながら二三度大きくバウンドして山へ山へと進んだ。
    窓の外は思っていたよりもずっとずっと紅葉が残っているじゃないか!
    さぞ昨日は見物だったことだろう。
    今日は小雨の降るどんより空でいつ降り出すかわからない空なのが悔やまれる…。
    あまりの見晴らしの良さに途中下車する僕。
    それが苦行への入り口とも知らずに……




    (あの坂をのぼりました)

    そこからの旅はずっと絶景の連続だった。
    名所でもなんでもないただの道でさえ僕には宝にしか見えない。
    その道は山であり、山を削った谷であり、何もないどこまでも続く弾丸ストレートであり、地獄のような傾斜の峠だったりするのだ。
    どの景色にも自然がない場所は一カ所としてなく、田園がない場所もない。
    標高も様々で平野かと思えばいくつもの山を越える事にもなる。
    昨日からの峠続きでかなり限界ではあったのだけれど、そこにそんな美しい景色があるのだから体は動いてしまうから不思議だ…

    (自然の中の古びた人工物が好きだ)

    (一眼の使い方、少しマシになった気がする)

    感動を深く味わい、自分のものにすることでまた一ついい作品が生まれる。
    感動がなくては僕の感性などは錆び付いてしまうのだ。
    僕は天才じゃない。
    もちろん天才だったらいいなと強く思ってたし、強烈な劣等感に十年以上苛まれたりもした。
    いつも自信なんてなかった。
    誰もいないとこでよく泣いた。
    家にいても、何もないところから湯水のように何かを生み出せるのが一つの天才だと僕は思ってたりする。
    日がな一日こもって絵描いてられる人間…
    だがそいつは僕には無理なのだ。
    それは僕が尊敬する画家に任せた。
    僕は天才でなくていい。

    それなら僕は僕が大好きなありとあらゆる色んなものの力を借りようと思った。
    山、川、滝、海、街、バイク、音楽、人間、そして旅…色んなもんだ。
    それらを集めて自分の中で吸収していいと思える作品を作る、ただそれだけが自分の道だと心から認める事ができたのは実はほんの少し前の出来事なのだ。
    それから僕は自分を認める事ができ、以前より遥かに自分を好きになれた。
    作品も進化し続けていると自覚してる。
    ただしめちゃくちゃな行程で旅をしたり野宿したり危険を顧みなくなったのもこのせいではある……
    僕はこれでも必死だったりする。
    常に進化し続ける為にひたすら飢えてるのだ。
    だからきっついこんな傾斜も真夜中の森も歩いてけるんだろう。
    この足の痛みが次の作品に続いてくんだと信じてるからアホみたいに歩いてけるわけだ。

    改めて自分の中でこのようなやりとりをして僕は美人林に辿り着いた。
    足はガクガクだがこの静寂の林にを見た瞬間に疲れなどどこ吹く風である。
    「林」とはこういうものかと感動にやられた。
    一面の枯れ葉の絨毯。
    Blurのビートルバムのジャケットのような景色。
    枯れ葉と小枝を踏みしめる音だけがひびく。
    他には誰も何もない。
    僕と野鳥達とブナがそこにあるだけだ。







    この美人林のブナはおそらく新緑の頃が一番美しいと思う。
    雪がまだ地面に残っている新緑の季節の朝はこの世のものとは思えないほど美しいとか。
    池に映る若い青葉にため息が出るそうだ。
    紅葉もいいだろう。
    見上げれば茶色くあせた枯れ葉が一面に…
    どれも今はなくて葉は全てに近い程落ちてしまってはいたんだけれど…
    それでもその最高の時が見えるし感じることができる。
    ここは最高すぎると。
    想像してほしい。ここが新緑の頃を、紅葉の時を。



    枯れ葉に寝そべりただただ泣いた。
    『最高のジャズに出会うと森で死にたくなる』と言った人がいたが、わかる気がする。
    ジャズを流してみた。
    言葉にはならなかった…。
    新緑の季節、必ずここにまた来よう。
    空にのびる木を眺めて、池に映る木々に見蕩れて一日を過ごそうと思う。

    あまりにも美しい林を出て、現地のおばあちゃんと雑談しながら色んな話を聞いた。
    初雪を撮りたいが為に10日間も車中泊で待ち続けた滋賀のカメラマンがいたとか。
    棚田にしても同じで日本全国からカメラマンが集うこの十日町の魅力…
    罪深いとさえ思った。
    新潟はとんでもない場所ですよ。
    優しい笑顔のおばあちゃんの荷物運びを手伝ってお団子をいただいた。
    そこから僕はバス停に引き返す事なく先へと歩いた。
    松之山温泉を目指して山を下った。
    この旅で一番辛い旅路が始まる。

    僕の実家は田舎ではあるが、あくまでも都会の田舎なのだと深く考えさせられる。
    この先の旅路の中でそれはつくづく、とことん思い知らされる事になったのだ。

    つづく

    コメント
    ヤバいですね。
    新緑、紅葉も凄そうだけど、個人的には落葉した木立と絨毯、メチャクチャ惹かれました。
    自分の目で見て、そして感じたい(汗)
    きっと、感動のあまり、泣けてしまいそうです。
    SHUさんが羨ましい…。
    • ドクター
    • 2012/12/02 1:06 AM
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